はかせさんのブログ（日記）〜クラシック音楽の総合コミュニティサイト Muse〜

　弦楽四重奏はメンバーを集めるのが難しく、なかなかできない。特にベートーヴェンの中期、後期のカルテットをやりたいなどと思った場合、クリアしておかなければならない技術はきわめて高いし、その上、ベートーヴェンのカルテットに対する信仰心が必要で、これはというメンバーを見つけることが困難だ。だいたい、上手な人は合奏相手がいて忙しい。１度だけでもと、お願いすることになる。これまでにベートーヴェンの後期を弾いたのはいつも、そういう一瞬の集まりだった。
　学生時代には常設のカルテットを組んでいたが、就職してからはほとんど機会がなかった。そんな１０年ほど前の話。楽器製作の師匠（ヴィオラを弾く。ブラームスの室内楽が好き）から電話があった。「２台目のチェロができて、所属している市民オーケストラの首席チェロ弾きが弾いている。今度、自分の作った楽器ばかりでブラームスの弦楽６重奏第２番をやりたいので第1チェロを弾きに来て！」とのこと。私は彼の１号チェロを借りっぱなしにしていたのだ。第１ヴァイオリンは私もよく知っている名手Oさん、師匠が発起人の権力で第１ヴィオラ。第２ヴァイオリンは彼のオーケストラのコンサートマスター、第２ヴィオラは第２チェロの友達だという。
　それである日曜日にでかけていき、１日楽しんだのだが、この第２ヴィオラが素晴らしく上手だった。Ｍ君としておこう。話してみたら、ベートーヴェンの弦楽四重奏に対する信仰心も充分のようだった。その夜、Oさんと電話で話したのだが、やはりあのヴィオラはすごい、是非、一度カルテットをやらねば、と、意見の一致を見た。ところが、彼に連絡をとるためには、師匠から第２チェロの連絡先を聞き、そこでＭ君の連絡先を聞かなければならない。どっちも聞きにくい。だって、あなたではなく、Ｍ君とカルテットやりたいんで、などと言わなければならない。第２チェロも大事なヴィオリストを盗られる、と思うだろう。
　なんとか電話番号がわかり連絡したら、彼もOさんと私とでベートーヴェンのカルテットをやりたいと思っていたという。よし、あと一人。こうなると、もう、プロに頼むしかない。子供達のヴァイオリンの先生の、Ｗ先生に事情を話してお願いしたら、快諾。日頃からソロの演奏会も必ず聴きに行ったし、おさらい会ではいつも合奏の手伝いをしたりして、親交を深めておいてよかった。
　曲はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第１５番イ短調作品132全楽章。「リデイア旋法による、病気から回復したものの神に対する聖なる感謝の歌」で有名な第３楽章を含み、ベートーヴェンの後期で最も弾いてみたかった弦楽四重奏だ。私の後期弦楽四重奏の初体験となった。全楽章、非常に美しく、強烈に難しい。しっかり練習してから合奏に臨んだ。第１ヴァイオリンを弾いたＷ先生はかつて、ルイ・グレラー（トスカニーニのために設立されたNBC交響楽団のコンサートマスターだったかな。来日して日フィル（だったかな）で弾いていたので日本人の弟子が多い）と弦楽四重奏をやって鍛えられたことがあって、この曲もグレラーとやったそうだ。その時に習ったことなどを教えてくれながら、あっという間の６時間。
　また、やりたいなと思って、１週間ほどしてＭ君に電話をしたらお父さんが出て、遠い町のプロ・オーケストラの入団試験に合格して就職したとのこと。あーあ！プロになっちゃったんだ。

　チェロ　ヴィオラ（ビオラ）　ヴァイオリン（バイオリン）