チェロきちさんのブログ(日記)〜クラシック音楽の総合コミュニティサイト Muse〜

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絶対音感と水晶玉

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絶対音感という概念がある。どんな音を聞いてもドレミの音階で正しく位置づけられる感覚、絶対的な音の高低に対する、いわば記憶みたいな感覚である。

私は子供の頃から今までずっと、ひどい方向音痴だったし、運動だって水泳が好きだった以外は苦手な種目の方が多かった。唯一、音感だけはあった。クラシック音楽でなくても、コマーシャルのジングルやアニメ番組の主題歌を音符にすぐに置き換えられたし、ピアノでそれを弾いたりするのも比較的すぐにできた。救急車のサイレンも、人の叫び声も音符で聴こえていた。So what? だから何?って感じでしょ。So nothing --- そう、だからって何でもないんです。

けれど、音大を出た友人は信じようとしない。「絶対音感があるってこと?」やや目を細めて胡散臭げに問われた記憶がある。「じゃ、なんでマジで音大行かなかったんだよ?もったいねぇなぁ。」音大生から責められた記憶もある。高校生の私は、絶対音感なんて概念を知らなかったし、音は誰しもある程度、色分けみたいに、聴いたら何の音かがわかるものなんだと思い込んでいた。同時に、音大は子供の頃から特別なレッスンを受け続けた天才児が行くところで、自分にはまったく縁がない世界と思っていた。そしてそれは私の友人の音大出身の才能ある人たちを見ても、間違った考えではなかった、とわかる。ピアノのレッスンがイヤでイヤで休む理由ばかり考えていた私のような怠け者には、所詮、縁のない、太刀打ちできない世界だったのだ。

で、絶対音感のこと。最近、それが狂ってきているのがわかって、密かに困っている。相対的な音感(ふたつの音を聞いてそれが何度離れているかという感覚)は残っている。でも、絶対音感(と呼ばれるらしい音の記憶)に頼って、聞いたままの音を鍵盤を再現すると、最近では、半音ほど狂っていることが50%ぐらいの頻度で起きるのだ。

うーん、こういうのって文章で説明するのが難しいですね。

例えば、「ラ、シ、ソ」というメロディを聴く。昔は頭にすぐに「ラ、シ、ソ」と浮かび、それをピアノで「ラ、シ、ソ」と再現すれば、合っていた。つまり自分が正しい音を拾っていたと証明できた。

ところが最近では、「ラ、シ、ソ」と思った音が、実際には半音ずつ低い音で、「ソ#、ラ#、ファ#」だった、でも私にはナチュラル(白鍵)の「ラ、シ、ソ」に聞こえてしまう、という具合だ。演奏している楽器にもよるし音程の高低にも左右されるのだが、昔は100%当たっていたのが半分の確率でしか当たらなくなるというのは、寂しいものだ。

寂しいだけじゃなくて、音楽を聴いていて、気持ちが悪い。日常生活には影響ないでしょう、せいぜいチェロを弾くときに気をつければいいだけでしょう、だから not a big deal 大したことないよ、で済ませようと私もしていた。

でも、気持ちが悪いんです、とても。例えば、バッハの無伴奏チェロを聴く。このD(ニ長調)の第6組曲になると、何故かダメなのだ。どうしても半音上がったE♭(変ホ長調)に聞こえてしまう。いや第一楽章(Prelude)はまだいい。頭でDだ、Dだ、と言い聞かせて無理にDとして聴いている。でも途中からふと気を許してしまうと第二楽章(Allemand)あたりで崩れてくる。頭で意識しないで聴くと、既に耳はE♭の音符として解釈し、そのままE♭の音階でどんどん音符が頭に浮かんでくる。はっとして、これはDなんだ、E♭じゃないんだ、何でE♭に聴こえるの、What is wrong with me!? あたし一体どうしたんだ?と、マイナーパニックになる。どれだけDだよ、と自分に言い聞かせても、もうどうしてもE♭に聞こえたまま、感覚が戻らない。大げさでなく相当気持ちが悪いので、聴き続けるのを止めてしまいたくなることもある。

もしかしたら録音自体がずれてるんだろうか、とも思った。厳密なDに調音されずに、弾いているヨーヨー・マのチェロが第6組の6曲を収録したときだけ微妙に高めにチューニングされていたのか。あるいは何か意図があって高めに調音したのか(録音技師によっては演奏を艶やかに響かせるために人工的に440Hzをずらして442Hzぐらいに合わせて録音することがある、と読んだことがある。ただしこれは人間の耳には音の高低としては認識できないほどの差のはずだし、私の感覚の「ずれ」はそんな生半可な幅じゃない)。 どう転んでもE♭に聴こえるよ、と思いながら、手持ちのキーボードで弾き比べてみると、やっぱり(当然のことながら)私の感覚がおかしくて、ヨーヨー・マはちゃんと正確なDで弾いていることがわかる。

えー、勘弁してよー。私の持ちえた唯一の「取り柄」もこうして無くなって行ってしまうのか・・・。悲しかった。どうしたらいいかわからなくて、その「ずれ」を認識する度にため息をついていた。

*  *  *

きのう新しいピアノが来た。88鍵そろったピアノは久しぶりで、連日少しまとまった時間、弾いた。それでわかったのだが、気のせいか、音感が少しだけ戻ってくるのを感じている。色々な人の録音を聴いてピアノで弾いてみると、まだずれているときもあるが、今日はそれほどひどくなかった。ヨーヨー・マの無伴奏チェロの第6組も試しに聴いてみた。今日は少なくとも違和感のないDに聴こえるではないか。そんなことってあり得るんだろうか?ピアノを弾いただけじゃなくて、よく寝たから?のんびりした週末でリラックスしてるから?

うーん。もしかしたら、調律されたピアノの音階、A=ラ=440Hzを基準にちゃんとチューニングされたピアノの音から、あまりにも長い間遠ざかっていたから、自分の音感が狂ってきていたのか。ここ2日間、長時間ピアノに向かっているのでやや音感が鍛えられて戻りつつあるのか?だってこれまでもチェロを弾いてたじゃない、とも思うが、チェロのような弦楽器だけを基準に自分の音感を元に戻すのは至難の業だ。鍛えるのなら電子ピアノのように常に一定の音を出してくれる楽器が一番なのだろう。それじゃ、ピアノをまた弾くようになったら、ある程度は音感とは戻ってくるものなんだろうか。

そもそも絶対音感とは訓練次第で途中から身に付いたり、訓練を止めると失ったりするものなんだろうか。どなたかご存知だったら教えてください。そもそも、子供の頃にあれほど正確に身に付いていた音感は、特殊な訓練によるものではなかったが、こうして年を取るに従って失っていくものだとしたら、その感覚だけを過信して音楽の道を進まなかった私の選択はやはり正しかった、と結論付けていいのかもしれない。あるいは、自分にはできると勘違いして音楽大学に挑戦していたら、音感も失わないまま今に至っていたのだろうか。

人生をやり直すことは出来ないけれど、もしももっと真面目に音楽を勉強する道を歩んでいたら、今頃自分がどこで何をしていたか、水晶玉の中で映画みたいに見られるものなら、見てみたい。

・・・意外と、変わらずNYに住んで、チェロを習ってピアノを弾いて、Blogで、絶対音感のズレを嘆いている自分が見えるだけかもしれない。

 チェロ ピアノ 室内楽 協奏曲 交響曲


日付:2006年07月23日

2件のコメント

  1

このブログ(日記)へのコメント

Shigeru Kan-no

完全に絶対音感の耳ですね。でも絶対音感は優れた音楽家になる事を必ずしも保証しないので道は間違っていないと思います。この問題僕もいろいろなスレで書いてきました。ないよりもあったほうが良いけれども、自分の専用の音叉が一個増えるだけです。楽音以外を聴く場合にはLifeの邪魔にさえなります。

2006年07月23日 17時43分10秒

チェロきち

Shigeru Kan-no さま

コメントをありがとうございます。

「Lifeの邪魔にさえ」なるとのご指摘、
よくわかる気がいたします。

私も最近では音感がずれてきているので
普段の生活の中で馴染みの深い曲、特に
昔自分がピアノで弾いたことがある曲で
調を覚えている曲などを聴くと
なんだか気持ちが悪くて不快になります。

ずれるならずれるで、毎回ずれてくれれば
そのうち耳と脳が折り合いを付けてくれる気も
するのですが。

でも、ずばり、絶対音感は優れた音楽家になる事を
必ずしも保証しない、とのくだりに、なぜか
とてもほっとしました。別に自分が音大に行っていれば
すぐれた音楽家になっていたとは間違っても
自惚れていないのですが、絶対音感と言うものが
音楽家にとってどのような位置づけだったのだろう、と
ちょこちょこ考えていたので。

ありがとうございました。

2006年07月24日 07時43分22秒

2件のコメント

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