椰子の実さんのブログ（日記）〜クラシック音楽の総合コミュニティサイト Muse〜

海外長期出張が多い職業柄、滞在地では余暇を楽しむ工夫と意欲が必要。その主役はなんと言っても歌とギター。以前韓国で２年滞在したときは客先の宿舎に滞在。宿舎と言っても２LDKの立派なマンションで、一人で使うには広すぎる位。女房が友人と２人で韓国観光旅行がてら遊びに来たときはこの宿舎に３泊ほど滞在。お陰でホテル代が浮いたとか。さて長期滞在なのでショッピング街で楽器店を探し出し、クラシックギターを購入。毎日その日の仕事を終えて戻る途中で食材を求め、平日の夕食は自炊。自炊を始めるきっかけは痛風。それまで数ヶ月間、友人と帰りはいつも焼肉屋や巡りだったが、それが祟って痛風発症。この痛さは経験した人でないと分からない。それで自炊に切り替えた。食後はこのギターを取り出し日本から持参したギター楽譜で指ならし。学生時代のフォークソングで喉馴らし。その後３大テノールのCDを取り出し、テノールに挑戦。マンションは鉄筋コンクリート造りで防音は完全なので心配なし。（実は下の階の米国人御夫妻宅まで似非テノールの声は届いていたらしい。階段でご主人と顔を合わせたとき、「今日も楽しませて頂けますか？」と声をかけられ赤面。）その間、韓国のお客さんと飲食する機会もあることから韓国語の歌もいくつか覚えた。土日まで自炊はさびしいので焼肉屋でない普通の食堂（料理屋？）で夕食をとったが、毎週通う内、常連となり、食堂の皆さんに親しくして頂いた。片言の韓国語だが、なんとかコミュニケーションには使えた。それ以上にコミュニケーションに役立ったのはやはり音楽。元々この食堂に通うようになったきっかけがギター。街での購入した帰り、夕食で立ち寄ったのがこの店。日本人がギターを持って現れたので物珍しさも手伝って家族総出で歓待。これはなにかやらずに済まされそうもないので覚えたての韓国語の歌を弾き語りでご披露。（歌ったのはご存知「黄色いシャツ」）これが受けて週末の御用料亭になってしまった。
帰国前日に処理に困ったものが２つあった。ひとつは２年間の自炊生活で貯まった小銭類。空き缶に６本もあって数キロはあった。それとギター。いろいろ処分方法を考えた末、夜、近くのキリスト教会を訪ねた。ここに若人が集まって宣教集会をしているのを知っており、賛美歌のみならず、若者の歌を皆で合唱しているのは何度か通りすがりに聞いていたので、この小銭を浄財に、ギターを賛美歌・唱歌の伴奏用にとケースごと寄付することにした。ドアを開け薄明かりの土間に立ち、恐る恐る声を掛けると若い女性が出てきた。「ここに２年間滞在しましたが、明日帰国しますのでこれ、ここに寄付します。」とたどたどしい韓国で述べて、板張りの廊下に降ろすと、彼女急いで奥に駆け戻り、他の仲間を連れて出てきた。そこでもう一度同じ言葉を述べるとあっという間に皆に取り囲まれ歓待の握手攻めにあった。是非上がって下さいと腕を引っ張り上げられそうになるが、明日のフライトの時間も早いのでと、笑顔を振りまきながら、また準備もあるのでとお詫びしながら早々に退散。
翌日は快晴でのフライト。２年間暮らしたこの街を、何か満たされた気分で窓から朝のまぶしい光の中で見渡すことが出来、幾度となく往復したこの空の最後を飾るに相応しいフライトだった。

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